住宅ローン等の返済が困難になった場合の法的な整理方法としては、『個人再生』と『自己破産』の2つがあります。
いずれも、住んでいる場所の地方裁判所に申立をすることにより利用できる手続で、司法書士は書類作成者として自己破産と個人再生の手続きに関与しています。
その中でも「自己破産」は借金問題解決のための最終手段で、住宅ローンの残りの債務も含めて、返済義務を免除してもらうことができる手続です。
自己破産は、住所地(個人事業者であれば営業所所在地)の地方裁判所(=大阪には、大阪地裁、堺支部、岸和田支部の3か所があります)に申立することにより、借金の支払義務の免除を受ける手続きです。
抵当権が設定された住宅ローンがある場合、最終的には債権者が競売の申立をしますので、不動産の所有権を失うことになりますが、売却代金で残債務全額の支払を賄えない場合、多額の債務が残ることがあります。
不動産の任意売却の後に残った、住宅ローンの支払い義務も同じです。
そこで、裁判所に自己破産の申立をし、免責決定を得ることで、住宅ローンの残債務の支払義務もなくすことが可能となります。
住宅ローンがなくても自己破産は可能ですが、不動産を所有されている場合は、任意売却で不動産を処分するのと並行して、もしくは、債権者から不動産の競売を掛けられたのをきっかけに、自己破産の手続に進まれることがあります。
<自己破産の要件>
- 支払不能であること
(支払不能とは、財産・信用・労力によってもお金を調達できず、支払日に返済できない状態が続くことをいいます)
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- 例えば、不動産を売却することで債務を完済できるのであれば「支払不能」ではありませんので、まずは不動産を売却することにより、債務を精算することを考えます。
<自己破産手続の進行>
自己破産の申立に際し、裁判所には、下記のような書類を提出して審査されます。
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●財産関係・・・通帳、保険証券、自動車の車検証、不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書
●生活状況・・・給料明細、源泉徴収票、市府民税課税証明書、確定申告書
●負債関係・・・住宅ローン、カードローン、クレジットカード、消費者金融からの借入関係書類
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書類の提出後、裁判所からは2度呼び出される機会があります。
破産決定前の債務者審尋と、破産決定後の免責審尋です。
しかし、大阪地裁管轄の場合、管轄にもよりますが、審尋(裁判所に呼び出されて話を聞かれること)が省略される傾向にあります。
進行の方法は、破産管財人が選ばれた上で審査される「管財事件」と、管財人が選ばれない「同時廃止事件」がありますが、下記のような一定の基準を元に、裁判官の判断で振り分けられています。
不動産を所有している場合でも、オーバーローン(時価を大きく上回る住宅ローンが残っている)のことが多く、固定資産税評価額に対して2倍を超える住宅ローンの残債務が残っている場合は、『不動産を所有しているから』という理由だけで破産管財人は選任されません。
オーバーローンの場合は、自己破産の手続きで不動産は資産として扱われず、競売(もしくは任意売却)によって新たな買い手がつくまで、家賃を支払わずに住み続けることが可能です。
破産の決定後、ギャンブル・遊興費・浪費により過大な借金をした等の免責不許可事由があるかどうかの審査を受けて「免責」され、借金の返済義務はなくなります。
<破産で免除にならない債務>
自己破産をしても、固定資産税、市府民税、自動車税等の滞納している税金や国民健康保険料には、自己破産の免責の効果が及びません。
別途、役所で分割納付の話し合いをすることで、支払いをしていくことになります。
★破産管財事件と同時廃止事件の振り分けの基準(大阪地裁)
破産管財人が選任される「管財事件」になると、管財費用の負担が増えます。
また、破産の手続きが終わるまでの時間が長引いたり、自宅宛ての郵便物が管財人に転送されるなど、細かいチェックを受けることになります。
したがって、「破産管財事件になる可能性があるのかどうか」というのは、破産する方にとっては、大きな分かれ目です。大阪地裁管轄(本庁・堺・岸和田)では、次のような財産的な基準に該当する場合は、破産管財事件として処理する運用がなされています。
- 現金・普通預金の合計額が50万円を超える場合
- 12類型(@普通預貯金以外の預貯金、A保険の解約返戻金、B積立金等、C賃借保証金・敷金の返戻金、D貸付金・求償金等、E退職金、F不動産、G自動車、HG以外の動産(貴金属、着物、電器製品等)、I@〜H以外の財産(株式、会員権等)、J近日中に取得することが見込まれる財産、K過払金)の個別の価値が20万円以上になる場合
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・平成29年までは、生命保険や自動車など、個別の財産を残したい場合、同額の現金を用意して債権者に分配すること(按分弁済)で、同時廃止による破産決定が認められていましたが、現在では按分弁済の運用がなくなっています。
・退職金見込額は全額ではなく、その8分の1にした金額(大阪地裁管轄の場合)が財産として扱われます。
上記の財産的な基準に該当しない場合でも、個人事業者や法人の代表者、免責不許可事由(浪費、ギャンブルなど)の程度が重たい場合は、裁判官の個別の判断で、管財事件に移行することがあります。
<司法書士と弁護士の違い>
弁護士は、「代理人」として破産手続きを進めることができます。
司法書士は、裁判所に提出する「書類作成者」で、代理人とはなれません。
手続き上生じる具体的な違いとしては、裁判所から呼び出しがあった審尋の際、司法書士は部屋の中に同席することができません。
また、破産管財事件になる場合、弁護士代理の事件よりも、司法書士関与の破産事件のほうが、管財費用(予納金)が高くなることがあります。
したがいまして、当事務所では、特に「個人事業者の方」の方は、最初から弁護士さんにご相談されることをお勧めしています。
また、債権者に知人や取引先が含まれる場合は、個別の対処が必要となることもあります。金融機関、クレジットカード会社、消費者金融以外の債権者が含まれる場合も、弁護士さんへの委任をお勧めします。